
私塾 外科丸学校
Private School Gekamaru Gakko

パーキンソン病
診断基準
➀パーキンソニズムがある
②脳MRI、CTで異常がない
③パーキンソニズムを起こす薬剤・毒物を服用していない
④抗パーキンソン病薬にてパーキンソニズムに改善傾向がある
すべてを満たす場合にパーキンソン病と診断します。
原因
パーキンソン病は、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。
ドパミンが低下し、逆にアセチルコリンが過剰になるためにバランスが崩れた状態となっています。
症状
パーキンソン病では、主に、手足がふるえる(振戦)、動きが遅くなる(無動)、筋肉が硬くなる(固縮)、体のバランスが悪くなる(姿勢反射障害)、といった症状がみられます。これらによって、顔の表情の乏しさ、小声、小書字、屈曲姿勢、小股・突進歩行など、いわゆるパーキンソン症状といわれる運動症状が生じます。
また、パーキンソン病では、運動症状以外にも、便秘や頻尿などの自律神経の症状、不眠などの睡眠障害、うつ症状などの精神症状、認知機能障害などがみられることがわかっています。これらを非運動症状と呼びます。うつ症状は患者さんの約半数にその傾向があるといわれていて、患者さん自身や家族の方も気づかないことの多い症状です。認知症は病気が進行すると約2割の方にみられます。非運動症状は、患者さんやご家族と医師との間に、意志の疎通がよくとれていて、はじめて気づかれる症状です。
治療法
病勢の進行そのものを止める治療法は現在までのところ開発されていません。全ての治療は対症療法であるので、症状の程度によって適切な薬物療法や手術療法を選択します。
(1)薬物療法
パーキンソン病治療の基本薬はL-dopaとドパミンアゴニストです。高齢者(一つの目安として70~75歳以上)及び認知症を合併している患者は、ドパミンアゴニストによって幻覚・妄想が誘発されやすく、運動合併症の発現は若年者ほど多くないのでL-dopaで治療開始しましょう。
パーキンソン病の薬には以下の種類のものがあります。
Lドパ(レボドパ)合薬
(ドパミン原料のL-dopa とL-dopaの分解を防ぐL-dopa 脱炭素酵素阻害薬の合薬)
脳内で不足するドパミンを補充する中核治療薬です。脳の中へとりこまれ代謝され、不足しているドパミンになります。早期から多量に使用すると後述する症状の日内変動(ウェアリング・オフ現象)、不随意運動(ジスキネジア)などの運動合併症が出やすいとされ、服用に注意が必要です。ネオドパストン、メネシット、マドパー、イーシードパール錠などがあります。
ドパミンアゴニスト
(ドパミンのふりをして効果を出す)
脳内でドパミン受容体を刺激し、ドパミンのように作用します。Lドパに比べて作用時間が長く、症状の日内変動を軽くすることができます。ビ・シフロール、ミラペックス、レキップ(CR)錠など非麦角系と、パーロデル、ベルマックス、カバサール、カベルゴリン錠など麦角系があります。麦角系は心臓弁膜症をきたすことがあり、まず非麦角系から使用します。最近ミラペックスやレキップ(CR)錠など長時間作用する薬が使われています。またニュープロという貼り薬も新しく使えるようになり、皮膚からの吸収作用で症状の変動を小さくできる可能性があります。
アポモルフィン
非麦角系のドパミンアゴニストの注射薬です。既存のパーキンソン病薬の増量で十分な効果の現われないオフ症状に対し、レスキュー的に使用し、速やかな症状の一時的改善が期待されます。患者さんが自己注射をします。一日の注射回数は5回までで、注射の間隔は2時間以上あける必要があります。アポカイン注射薬があります。
抗コリン剤
ドパミン系が低下することで相対的に優位になった脳内のコリン系を抑制するために使用します。古くからアーテン、アネキトン錠などがあります。口渇・便秘・物忘れなどの副作用があります。
塩酸アマンタジン
ドパミン神経終末からドパミンの放出を促進します。シンメトレル、塩酸アマンタジン錠などがあります。副作用でむくみや幻視が出ることがあります。
MAO-B阻害剤
脳内でドパミンの分解を抑制し、効果を延長します。エフピー錠があります。1日1回(朝)か1日2回(朝、昼)使用します。主に日内変動に対して使いますが、病初期から使うこともあります。立ちくらみ、幻覚、ジスキネジアが出ることがあります。
COMT阻害剤
Lドパと併用することで、脳に入る前にLドパが分解されることを遅らせ、脳に入りやすくします。症状の日内変動に使用します。コムタン錠があります。Lドパの副作用が出ることがあります。尿が赤く着色しますが、問題はありません。
ドロキシロパ
脳内に不足しているノルアドレナリンを補充します。特にすくみ足症状に使用されます。起立性低血圧にも使用することがあります。ドプス錠があります。
ゾニザミド
もともとはてんかんの薬です。Lドパの作用を増強・延長します。ふるえや日内変動に投与します。ジスキネジアや幻覚がでにくいとされます。トレリーフ錠/ゾニサミドがあります。使用量が1日25mgから50mgまでに増量されました。
アデノシンA2A受容体阻害剤
脳内でドパミンは神経系に対し抑制的に働き、アデノシンは興奮的に働いています。パーキンソン病ではドパミンが不足する結果、アデノシンが優位になり神経系を過剰に興奮させ、その結果、運動障害が出現するといわれています。この薬はアデノシンA2A受容体を阻害し、アデノシンの働きを抑え、ドパミンとのバランスをとる作用があります。Lドパで治療中の日内変動に使う、新しいタイプの薬です。ノウリアスト錠があります。
進行期の治療
パーキンソン病では薬がよく効くハネムーン期が5年程度あるといわれています。しかし、進行期になると運動合併症、非運動合併症が問題となってきます。
運動合併症は次のものがあります。
症状の日内変動(ウェアリング・オフ現象)
薬の効く時間が短縮し、次の服用までに効果が消える (パーキンソン病の進行に伴って、ドパミンを保持する神経終末が減少するためとされています)
オン-オフ現象
Lドパの服用時間と関係なく症状が突然に良くなったり(オン)、悪くなったりする(オフ)
オンの遅れ
Lドパの効果が出るまで時間を要する
オンの消失
Lドパを服用しても効果を認めない
不随意運動(ジスキネジア)
体の一部が勝手に動き、止まらない、口唇をかむ、しゃべりにくい、じっとできない、手足を思ったように動かしにくい
進行期の運動合併症への対策としては、薬を頻回に内服する、効果が長めの薬に変更する、注射製剤を活用するといった方法がとられます。また、Lドパの吸収をよくするために、空腹時に服用する、粉砕してレモン水やビタミンCと内服する、胃腸の働きを高める薬を一緒に飲む、などの方法があります。
非運動合併症である便秘、排尿障害、起立性低血圧、よだれ、睡眠障害、幻覚・妄想などの症状に対しても治療が必要になります。
➀ パーキンソン症状を悪化させる可能性がある薬(服用する量にも依ります)
胃腸薬
プリンぺラン、ドグマチールなど
うつや不安
ドグマチールなど
精神薬
リスパダール、ジプレキサなど
認知症の薬
アリセプト
てんかんの薬
デパケン
② パーキンソン薬を効きにくくする可能性がある薬
胃酸の分泌を抑える薬
ガスタ―、タケプロン、オメプラールなど
酸化マグネシウム製剤
③ パーキンソン薬により副作用が強くなるおそれのある薬
うつの薬
パキシル、ジェイゾロフト、トレドミンなど
(2)手術療法
手術は定位脳手術によって行われます。定位脳手術とは頭蓋骨に固定したフレームと、脳深部の目評点の位置関係を三次元化して、外から見ることのできない脳深部の目標点に正確に到達する技術です。手術療法も症状を緩和する対症療法であって、病勢の進行そのものを止める治療法ではありませんが、服薬とは異なり持続的に治療効果を発現させることができます。
予後
パーキンソン病自体は進行性の疾患です。しかし、生命予後は決して悪くはありません。
平均余命は一般より2~3年短いだけとされています。