
私塾 外科丸学校
Private School Gekamaru Gakko

甲状腺
視床下部からTRH→下垂体からTSH→甲状腺 へとフィードバック機構があります。
甲状腺ホルモンには、4つのヨウ素を持つサイロキシン(T4)と、3つのヨウ素を持つトリヨードサイロニン(T3)の2種類があります。
甲状腺ではおもにT4が合成されますが、肝臓などでT4がT3に変換されることによってホルモンとしての働きを発揮するようになります。
遊離型のFT4やFT3がホルモンとして機能します。
甲状腺機能の検査ではTSH、遊離T4(FT4)、遊離T3(FT3)の3つを測定するのが基本です。
甲状腺機能亢進症状や、甲状腺機能の検査によりバセドウ病が疑われる場合にはTRAbの測定を行います。バセドウ病はTRAbが甲状腺のTSH受容体に作用して甲状腺ホルモンを過剰に分泌する疾患です。つまり、TRAbはバセドウ病の原因抗体ですから、バセドウ病の診断にはTRAbの測定が極めて重要です。さらに、病勢のマーカーでもあることから、バセドウ病の経過観察においても有用であり、定期的に測定します。
甲状腺機能低下症状や、甲状腺機能の検査により橋本病が疑われる場合には、抗サイログロブリン抗体(TgAb)と抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体(TPOAb)の検査を行います。

3種類の病気
1 甲状腺機能の異常
甲状腺の機能亢進
バセドウ病
病態
甲状腺の表面にあるTSHレセプターを異物と勘違いして、
自己抗体(TSHレセプター抗体=TRAb)をつくってしまいます。
このTRAb が甲状腺のTSHレセプターにくっついて甲状腺を刺激するために、甲状腺ホルモンを過剰につくり続けるバセドウ病になります。
症状
(1)甲状腺腫
(2)眼球突出
(3)頻脈
診断
甲状腺ホルモン(FT3、FT4)の上昇、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低値、抗TSHレセプター抗体(TRAb)の高値
治療
抗甲状腺剤の内服、
MMI(メルカゾール)、PTU(チウラジールかプロパジール)の2種類
適応・年齢の制限はなく病気の軽い人 ・甲状腺腫が小さい人
長所 ・外来治療でよい。妊娠、授乳も可能。
短所 ・治療期間が長い(1年~数年間) ・實解率が低い・副作用あり。
手術(甲状腺亜全摘術)、
アイソトープ治療(放射線ヨード内服)
の3つの治療法があります。
甲状腺機能結節(プランマ―病)
病態
結節から分泌される
診断
低TSH アイソトープ検査シンチグラムをとり結節の同定
治療
PEIT
甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生腫瘍
病態
下垂体に腫瘍ができTSHが分泌される
診断
CT検査など
治療
放射線治療、手術
破壊性甲状腺炎
病態
炎症により甲状腺が破壊されて漏出する
ウイルスによる「亜急性甲状腺炎」
原因不明の「無痛性甲状腺炎」
診断
一過性のホルモン上昇 アイソトープ検査ではヨウ素の集積無し
機能低下症
橋本病
病態
甲状腺の自己抗体により甲状腺機能が低下する
診断
甲状腺の自己抗体が陽性になる。
甲状腺が硬い。
びまん性(=甲状腺全体に広がっている状態)の甲状腺腫がある。
甲状腺の超音波検査でエコーレベルの低下がある。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い。
治療
チラーヂンSは甲状腺ホルモン補充療法で最もよく使われる薬です。チラーヂンSはthyroxine(T4)と呼ばれるホルモンで、体内でtriiodothyronine(T3)と呼ばれるホルモンに変換され、作用を発揮します。
チロナミンはT3製剤です。効き目は早いが体内からの消失も速く、効果は長く続きません。すぐに甲状腺ホルモン濃度を上げたいときに適しています。
続発性甲状腺機能低下症
病態
下垂体腫瘍など
出産時の母親の大量出血による下垂体虚血で機能低下する「シーハン症候群」など
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
治療
生後3ヶ月以内に治療を開始すれば障害はなくなる
2 甲状腺のはれ
単純性びまん性甲状腺腫:甲状腺が全体的にはれているだけの状態です。腫瘍や炎症もなく、甲状腺の働きにも異常はありません。思春期(成長期)に多く見られます。しかし、将来甲状腺機能に異常が生じる可能性があるため、定期的に検査し、経過を観察する必要があります。
3 甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍の8~9割は、特に治療の必要のない良性のものです。直径2cm以下の初期の甲状腺腫瘍では、自覚症状はほとんどありません。腫瘍が大きくなると、首の腫れやしこり、ものを飲み込むときの違和感などの症状が現れることがあります。
甲状腺疾患と妊娠
疾患の状態によって妊娠に及ぼす影響は大きく左右されます。そのため早期発見・早期の治療開始が重要です。妊娠前からこれらの疾患にかかっていることが分かっている場合は治療を行い、良好な管理状態となった上での妊娠が望ましいと言えます。
(1) 甲状腺機能亢進症
適切な治療がなされていない場合、早産や死産、妊娠高血圧腎症(以前の妊娠中毒症)、子宮内胎児発育遅延(IUGRと略します)などのリスクが高くなります。また、生まれた赤ちゃんに甲状腺機能亢進症がおこることもあります。
治療:抗甲状腺剤の内服を行います。妊娠中期には生理的変化により一時的に疾患が改善したかのようになりますが、分娩後に再び悪化することが多いです。また、分娩時などに高度の甲状腺中毒状態になることがあるので注意が必要です。
(2) 甲状腺機能低下症
適切な治療がなされていない場合、流産、妊娠高血圧腎症やIUGRのリスクが高くなります。また、赤ちゃんの甲状腺機能低下が起こることがあります。
橋本病の場合は自己免疫疾患であるため、妊娠中に改善し分娩後に悪化することが多いとされます。
治療:甲状腺ホルモン剤による補充を行います。
甲状腺がん
サイログロブリン(Tg)の測定も有用な場合があります。Tgは甲状腺ホルモンの前駆物質であり、甲状腺に腫瘍があったり炎症により甲状腺組織が破壊されたりした場合に血中Tg濃度が上昇するため、甲状腺の腫瘍マーカーとして有用です。また、傍濾胞細胞から分泌されるカルシトニンは甲状腺髄様癌のマーカーとして有用です。
甲状腺にできる主な悪性腫瘍には、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、低分化がん、髄様(ずいよう)がん、未分化がん、悪性リンパ腫などがあります。なお、乳頭がん、濾胞がん、低分化がんをまとめて甲状腺分化がんといいます。
1)乳頭がん
乳頭がんは、甲状腺がんの中で最も多く、約90%がこの種類のがんです。リンパ節への転移(リンパ行性転移)が多くみられますが、極めてゆっくり進行し、予後(治療後の経過)がよいとされており、生命に関わることはまれです。しかし、ごく一部の乳頭がんは再発を繰り返したり、悪性度の高い未分化がんに変わったりすることがあります。高齢で発症するほど悪性度が高くなりやすいとされています。乳頭がんは、次の濾胞がんとともに高分化がんといいます。
2)濾胞がん
濾胞がんは、甲状腺がんの中で2番目に多い(約5%)がんです。良性の甲状腺腫瘍(濾胞腺腫)との区別が難しいことがあります。乳頭がんに比べて、リンパ節への転移は少ないのですが、血液の流れに乗って肺や骨など遠くの臓器に転移(血行性転移)しやすい傾向があります。遠隔転移を生じない場合の予後は比較的よいとされています。
3)低分化がん
低分化がんは、甲状腺がんの中で1%未満とまれです。高分化がんと未分化がんの中間的な特徴を示します。高分化がんに比べると遠くの臓器へ転移しやすい性質があります。高分化がんと共存する場合や、低分化がんが未分化がんに進行する場合もあります。
4)髄様がん
髄様がんは、傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう:甲状腺の中のカルシトニンを分泌する細胞)ががん化したもので、甲状腺がんの中の約1〜2%です。乳頭がんや濾胞がんよりも症状の進行が速く、リンパ節、肺、肝臓への転移を起こしやすい性質があります。遺伝性(家族性)の場合もあるため、家族も含めて検査が行われることがあります。
5)未分化がん
未分化がんは、甲状腺がんの中の約1〜2%です。進行が速く、甲状腺周囲の臓器(反回神経、気管、食道など)への浸潤(しんじゅん)や遠くの臓器(肺、骨など)への転移を起こしやすい悪性度が高いがんです。
6)悪性リンパ腫
甲状腺にできる悪性リンパ腫は、甲状腺がんの中の約1〜5%です。慢性甲状腺炎(橋本病)を背景としている場合が多いとされています。甲状腺全体が急速に腫(は)れたり、嗄声や呼吸困難が起こったりすることがあります。
悪性リンパ腫の種類としては、MALTリンパ腫や、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などがみられます。
参考
ウルトラ図解 甲状腺の病気 伊藤公一 著 法研